≪5≫
港町に船を着け、久しぶりに陸に降り立つクリスたち。
テンションが高いのはティエラ。新たな恋人を探し求め、買い出しそっちのけでまずは酒場へ繰り出すと言う。
ティエラ「世界中の女たちが海に嫉妬しながらオレの帰りを待ってるからな!」
手下たちのブーイングなど「オレにとっては情熱的な夜の幕開けを告げるオーバーチュアだ」と、柳に風。
普段は船に残るアルベールだが、この辺りは故郷のほど近く。
クリスとアンリに決して船を降りないようにと釘を刺し、懐かしさからティエラと共に街へ出る。
しかし、今や敵国に支配された城下の街へと近づくに連れ、荒んだ民たちの生活が目に飛び込んでくる。
かつて幸せに暮らしていた人々が、皆、貧しさと飢えに苦しんでいる。
アルベールは、街に潜伏するレジスタンスの一団と出会い、故郷の実情を知るのであった。
祖国を奪い支配者となった新たな王は非道な暴君であり、国民は苦しめられている。
彼らレジスタンスは、明日、国を奪還すべく立ち上がるのだと言う。
遠くに見える、城の建つ丘を見つめるアルベール。
美しかった草木も花も、今は色を失っている……。
激しい憤りを覚えるとともに――アルベールの胸には、ジワリとある迷いが生まれる。
それを察しているティエラ。
アルベール「私は、どうすべきでしょう」
ティエラ「それをオレに聞くなよ。仲間なんだから、危ねぇことはさせたくねぇに決まってんだろ」
アルベール「……」
ティエラ「故郷や親を投げ捨てて逃げざるを得なかった悔しさは、
故郷もなけりゃ母親の顔も知らねぇオレには分かるはずもねぇが、だからってどうしようもねえ。
命があるだけ儲けもんじゃねえか。しぶとく逞しく、生きるしかねえ。死に急ぐんじゃねえぞ……」
アルベール「(笑み)船の上で戦う時は、あれほど命知らずなきみが、らしくありませんね」
ティエラ「ハッ、知ってるだろ、オレの座右の銘。オレは荒波と海賊に育てられた男。
魂は火花散る船上にある。でもな――命を落とす場所はそこじゃねぇ」
ティエラは血と火薬の臭いを求めて戦いに身を投じる自分の性分を理解しつつ、「死ぬ時は
海でなく女の腕で」と歌う。
ティエラの信念は、猛々しく、自由で、アルベールには眩しいのであった。
アルベール「きみが、少し羨ましいですね」
ティエラ「確かに、散々好き勝手生きてるオレがお前に口出しする権利はねぇな(苦笑)。でも……クリスのことは考えてやれよ。あいつは、お前を兄貴のように慕ってる」
アルベール「……」