≪3場:狂人アレクシス≫
件の事故以来、劇場の屋根裏部屋に引きこもっているアレクシスは、売れない劇作家として生きている。
誰とも顔を合わせず、暗い表情で自分を憐み、運命を呪いながら筆を走らせる日々。
彼の生み出す作品はどれも大仰でセンセーショナル。
ロンドンミュージカルとしては異端的。
劇場に出入りする役者や裏方勢は、アレクシスを屋根裏に棲む『狂人』と恐れていた。
♪『彼は狂人』(歌唱:アレクシス&アンサンブル)
「俺は劇場に轟く恐ろしいうめき声を聞いた!」
「醜い化け物が棲んでいる!」
「美しい女優が取って食われた!」
「「「何より彼の書くストーリーは狂気じみている!」」」
そんな風に噂に怯える彼らを、あざ笑うかのように歌うアレクシス。
「ドラマチックなストーリー? 初々しいキス? お涙頂戴の旋律? そんなものクソ喰らえ! ご都合主義上等! 求めるのはエンターテインメント! 観客をも踊り出す熱いダンスだ!」
「「「彼は狂ってる!!」」」
「ここは俺の舞台、お前たちの望む狂人を演じてやろう。醜い俺にはハマり役だ! 誰も……俺に関わるな……」
劇場から人々が去ると――ランバートがやって来る。
ただ1人アレクシスを恐れずに、毎晩訪ねてくるランバート。
しかし、屋根裏部屋のドアは固く閉ざされ、ノックをしても開くことはない。
アレクシスはランバートを口汚く罵り、追い返そうとする。
それでもめげず、親友であるアレクシスの心を開こうとするランバート。
ランバートの鈍感さに呆れ、相手にしないアレクシスだが、ランバートは一方的に今日の出来事を話し始める。
オーディションを受けたこと。やはり今回も役をもらえなかったこと……。
いつも明るいランバートだが、つい弱音を吐いてしまう。
ランバート「僕には芝居の才能がないのかな……。いつも思うんだ、もし僕が君だったら……! この手が、この足が君のものだったら……! もっと多くの人を感動させられるのに、って……」
♪『僕が奪った未来』(歌唱:ランバート)
アレクシスの才能を尊敬し、「僕が君であったらもっと自信を持って羽ばたけるのに」と、思いを馳せているランバート。同時に後ろめたさに苦しむ。
ランバート「だけど、それは僕が奪ってしまったもの……僕が奪った未来……それを思うと、胸に苦しみが……暗い感情が滲み出す……」
『ランバートの影』がゆっくりと歩み寄り、冷たい眼差しでランバートを見つめている。
膝を抱えるランバート、「君は、僕の悪魔か……?」と。
ランバートの苦しみを察して、ドア越しに言うアレクシス。
アレクシス「……俺の宝物をやろう」
アレクシスはわずかなドアの隙間から、なんてことはないガラクタを差し出す。
それを大事そうに受け取るランバート。
アレクシスの不器用な慰めに、もう何度も救われている。それが、2人の友情の形であった。
♪『宝物』(歌唱:ランバート)
「君から大切なものを受け取ると、君から大切にされていると思えるんだ。それだけで、世界から大切にされているように思えるよ。ほんの小さなガラクタ1つで、僕はこんなにも強くなれる……」